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広島地方裁判所 昭和50年(ワ)267号 判決 1977年5月30日

原告 永田美智子

右訴訟代理人弁護士 外山佳昌

右訴訟復代理人弁護士 増田義憲

被告 村上治夫

右訴訟代理人弁護士 角田好男

主文

一  別紙物件目録記載の土地が原告の所有であることを確認する。

二  原告が、別紙物件目録記載の土地について、松本節子に対し、昭和三四年ころ被告と同訴外人の間に締結された賃貸借契約に基づく賃料債権を有することを確認する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(第一次的請求)

主文同旨

(請求の趣旨第二項について第二次的請求)

被告は原告に対し、別紙債権目録記載の債権を移転せよ。

(同じく第三次的請求)

被告は原告に対し、八一万九〇〇〇円及びこれに対する昭和五一年一一月一日から支払済まで年五分の割合による金員並びに昭和五一年一一月一日から判決確定に至るまで毎月末日限り一か月七〇〇〇円の割合による金員を支払え。

仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  村上宗夫は本件土地を所有していたが、同訴外人は昭和一八年四月二五日死亡した。原告は同訴外人の家督相続人であり、同訴外人の死亡によって本件土地の所有権を取得した。

2  (第一次的請求について)

(一) 被告は昭和三四年ころ原告を代理して本件土地を訴外松本節子に賃貸した。

(二) かりにそうでないとしても、被告は昭和三四年ころ本件土地を訴外松本節子に自己の権利に属するものとして賃貸したが、被告の右意思表示はなんらの権利なくしてなされたものであり、原告は被告の右行為を昭和五二年一月二四日被告に対して追認した。

3  (第二次的請求について)

(一) 被告は原告の所有する本件土地を昭和三四年ころ自己のものとして訴外松本節子に賃貸した。

(二) 被告は右賃貸により、別紙債権目録記載の債権を取得して利益を受け、原告はこれによって右債権相当の損失を受けている。

4  (第三次的請求について)

(一) 被告は、本件土地の所有権が原告にあるのに、自己が本件土地を所有するものと軽信してこれを右松本に賃貸し、よって原告に損害を生ぜしめた。

(二) 被告の右不法行為によって原告が受けた損害は、昭和四二年二月一日から昭和五一年一〇月末日までの本件土地の月額七〇〇〇円の割合による賃料相当額八一万九〇〇〇円及び同年一一月一日から判決確定に至るまでの毎月七〇〇〇円の賃料相当額である。

5  よって原告は、本件土地が原告の所有であることの確認を求め、併せて、第一次的に原告が本件土地につき松本節子に対し前記賃貸借契約に基づく賃料債権を有することの確認を求め、右請求が認められない場合予備的に、被告に対し、不当利得として別紙債権目録記載の債権を移転することを求め、右請求も認められない場合、予備的に、被告に対し、不法行為に基づき損害金八一万九〇〇〇円及びこれに対する不法行為の後である昭和五一年一一月一日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金並びに昭和五一年一一月一日から判決確定に至るまで毎月末日限り七〇〇〇円宛の損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1は認める。

2  請求原因2(一)は否認する。

3  請求原因2(二)のうち本件土地を訴外松本節子に自己の権利に属するものとして賃貸した点は認める。

4  請求原因3(一)のうち本件土地が原告の所有である点は争い、その余は認める。

5  請求原因3(二)のうち被告が別紙債権目録記載の債権を取得した点は認め、その余は争う。

6  請求原因4は争う。

三  抗弁

1  原告の親権者村上ミヨの代理人松浦綾太郎は昭和二〇年一〇月二二日に、かりにそうでないとしても原告の親権者村上ミヨは同年一一月二六日に、原告を代理して本件土地を被告に贈与し、被告がこれを応諾したことによって、原告は右土地に対する所有権を失った。

2  かりにそうでないとしても、被告は、右村上ミヨと婚姻した昭和二〇年一一月二六日に本件土地の占有を開始し、昭和四〇年一一月二五日まで二〇年間本件土地を占有した。被告は右占有により本件土地を時効取得し、原告はその所有権を失った。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1は否認する。

2  抗弁2のうち占有の事実は認める。

五  再抗弁(抗弁2について)

被告は原告の継父として原告のために本件土地の管理者として本件土地の占有を開始したものであり、その占有は他主占有である。

六  再抗弁に対する認否

否認する。

第三証拠《省略》

理由

一1  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

2  被告本人尋問の結果のうち被告主張の抗弁1の事実にそうかの如き口吻の部分はたやすく措信できず、また、《証拠省略》によれば、本件土地が被告の所有に属する旨を記載した、原告名下の印影が原告の印顆によって顕出されたことが当事者間に争いのない乙第七号証の一は、原告の意思に基づかずしてなにびとかによって作成されたものであることが認められ、被告本人尋問の結果のうち右認定に反する部分はたやすく措信できず、右乙号証が真正に成立したものとは推定できず、他に右抗弁1の事実を認めるにたりる的確な証拠はなく、右抗弁は採用できない。

3  被告が本件土地を昭和二〇年一一月二六日から二〇年間占有したことは当事者間に争いがない。

ところで、占有における所有の意思の有無は、占有取得の原因である事実によって客観的に定められるべきものであるところ、《証拠省略》によれば、被告は、原告の親権者村上ミヨと婚姻した昭和二〇年一一月二六日当時村上ミヨと婚姻しても、昭和一五年二月二四日生れの原告が満一五才になるまでは本件土地の所有権を取得しえず、それまでは原告のため管理する意思で本件土地の占有を開始したものであり、被告が右占有取得の原因である事実として主張する昭和二〇年一〇月二二日付、あるいは同年一一月二六日付の原告から被告に対する贈与契約のなかったことが認められ(る。)《証拠判断省略》右事実によれば被告による本件土地の占有は所有の意思なき、いわゆる他主占有であるというべく、被告の取得時効による原告の所有権喪失の抗弁は採用できない。

4  以上の事実によれば本件土地は原告の所有に属するものというべきである。

二1  被告が原告を代理して本件土地を訴外松本節子に賃貸したとの原告主張事実を認めるに足りる証拠はない。

2  被告が昭和三四年ころ本件土地に自己の権利に属するものとして賃貸したことは当事者間に争いがない。

原告は、被告による本件土地の右賃貸行為を本件口頭弁論において被告に対して追認した。ところで、或る物件につきなんら権利を有しない者がこれを自己の権利に属するものとして処分した場合において真実の権利者が後日これを追認したときは、無権代理行為の追認に関する民法一一六条の類推適用により、処分の時に遡って真実の権利者につき効力を生ずるものと解するのを相当とするから、本件の場合、原告と被告の間においては、被告が右松本に本件土地を賃貸した日に遡って原告と右松本の間に本件土地の賃貸借関係を生じ、原告は右松本に対して右賃貸借関係から生ずる賃料債権を有するものというべきである。

三  結論

よって、原告の被告に対する第一次的請求はすべて理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 中原恒雄)

<以下省略>

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